在日朝鮮・韓国籍の方の相続手続

 相続とは、人の死亡によって開始する身分的地位や財産的権利の承継制度ですが、在日朝鮮韓国人が日本で死亡した場合も同様に相続が発生します。
 しかし、日本人が亡くなった場合と異なり、遺言がない場合は、「韓国法」にしたがって、不動産や株式、銀行預貯金などに関する各種相続手続を行うことになります。
 なお、本ホームページでは、朝鮮籍の方であっても、特に北朝鮮法の適用を必要とする方以外の方を在日朝鮮韓国人と表現し、韓国法の適用をうけるものと考えることにします。

遺産分割協議

 韓国法も日本法と同様に、相続人の間で、誰がどの財産を相続するかを、相続人全員の協議によって定めることができるとものとしています(日民907条、韓民1013条)。
 そのため、誰が相続人に該当するのかといった問題が一番重要になります。法律上相続人に指定されている者を「法定相続人」と言い、「法定相続人」が承継する遺産の割合を「法定相続分」と言います。

(1)法定相続人・法定相続分(韓民1000条・韓民1003条1項)

相続順位 配偶者のある場合(割合) 配偶者のない場合
第1順位 直系卑属と配偶者(1:1.5) 直系卑属
第2順位 直系尊属と配偶者(1:1.5) 直系尊属
第3順位 配偶者(1) 兄弟姉妹
第4順位   4親等以内の親族

 上述したとおり、遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があるため、相続人を一人でも欠いた状態で行った遺産分割協議は無効となります。例えば、父親が亡くなったとして、その相続人が妻・長男・次男・行方不明になっている長女の4名である場合に、連絡のとれない長女を除いて行った妻・長男・次男の間の遺産分割協議は無効となり、仮に不動産などの名義をいったん上記遺産分割協議に基づいて取得したとしても、これも原則的に無効となります。
 そこで、相続人全員による協議を行うためにも、法定相続人の特定は非常に重要です。日本法によれば相続人とならない者であっても、次の者は韓国法によれば相続人となるので、特に注意が必要です。

(2)代襲相続人の配偶者

 日本民法では、被相続人の子が相続開始前に死亡したとき、相続欠格者となったとき及び、廃除されたときは、その者の子がこれを代襲して相続人となり、さらに代襲者が相続開始前に死亡したとき、相続欠格者となったとき及び、廃除されたときも、その者の子は同様に代襲相続人になるとされています(日民887条2項、3項)。しかし、韓国民法では、相続開始前に死亡した又は欠格者となった子又は兄弟姉妹の子のみではなく、配偶者にも代襲相続権を認めています。

(3)相続登記手続に必要となる標準書類

被相続人
出生から死亡に至るまでの除籍謄本及びその翻訳文
基本証明書
家族関係証明書
(婚姻関係証明書)及びその翻訳文
住民票の除票
 ※外国人登録原票
 ※婚姻届記載事項証明書
 ※死亡届出記載事項証明書
相続人
全員の基本証明書
全員の家族関係証明書
全員の印鑑証明書
遺産を取得する方の住民票
 ※外国人登録原票
 ※出生届記載事項証明書
その他
対象不動産の固定資産評価(公課)証明書

相続放棄

 さて、上述したとおり、相続とは人の死亡によって開始する身分的地位や財産的権利の承継制度ですが、財産的権利に関してはそれが積極的(プラス)であるか消極的(マイナス)であるかを問いません。
 つまり、消極的(マイナス)遺産が積極的(プラス)遺産を上回った場合、相続人は、法定相続人分にしたがって、相続債務(負債)を負うことになります。例えば、父が時価2000万円相当の不動産と、3000万円の借金を残して死亡した場合、不動産を売却して返済してもなお残った1000万円ついては、上述した法定相続分にしたがって、各相続人は債権者に対して返済しなければなりません。また、上述した遺産分割協議によって、相続人の誰か一人が債務を負うといった内容の協議を行ったとしても、債権者に対しては効力を有せず、やはり各相続人が債権者に対して返済しなければなりません。
 そこで、日本法も韓国法も、「相続放棄」をすることによって、相続人が遺産を相続しないことを認めているのです。

(1)相続放棄の方法(法の適用に関する通則法10条1項・2項)

 ところで、日本人の相続、在日朝鮮韓国人の相続を問わず、「私は相続放棄しました」、「相続放棄します」といわれる相続人が多いのですが、「相続放棄」は、単に相続放棄をすると宣言すればよいものではありません。また、他の特定の相続人に相続させるため、自分は一切遺産を承継しないといった内容の遺産分割協議書にサインしたとしても、これも「相続放棄」したことにはなりませんので注意が必要です。
 日本人の相続に関しては、日本の家庭裁判所に、在日朝鮮韓国人の場合は日本の家庭裁判所又は韓国の家庭法院に、相続の開始のあったことを知った日から3か月以内に、それぞれ相続放棄する旨を申述(申告)しなければなりません。

(2)孫の相続放棄の必要性

 日本法では、第1順位の相続人は「子」であるとされています(日民887条1項)。そのため、例えば、被相続人を父とする相続が開始した場合、相続人全員である子2名が相続放棄をすると、子2名は初めから相続人ではなかったことになると解されているため、次順位相続人として直系尊属が相続人となります(日民889条1項)。しかし、韓国法における第1順位の相続人は「直系卑属」とされているので、相続人全員である子2名が相続放棄をした場合でも、さらにその者らに子があると、その子が第1順位の相続人となります 。したがって、実務上子全員が相続放棄をするに際しては、孫の相続放棄の要否を検討しなければなりません。

(3)必要書類等

 相続放棄される方により異なりますが、概ね  遺産分割協議の(3)の範囲で足るものと考えていただければ問題ありません。

その他

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