在日朝鮮・韓国籍の方の遺言

 遺言とは、遺言者が自身の死後に一定の法律効果を発生させることを目的としてなす相手方のない単独行為です。近年において、自身の死後における親族間の紛争を避ける手段として遺言を用いる方が多くなっています。遺言をするには、法律で定められたある一定の形式を満たす必要があり、これを「遺言の方式」とよびますが、在日朝鮮韓国人が遺言をする場合でも遺言の方式を整える必要があります(韓民1060条)。方式の整っていない遺言は無効となりますので、注意が必要です。

遺言の方式

 日本人が遺言をする場合、特別の方式によることが許される場合を除いて、普通方式として、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの方式のいずれかによることになりますが(民法967条)、在日朝鮮韓国人が遺言をする場合もこれらのいずれかの方式によることができます(遺言方式準拠法2条)。その他に韓国法が規定する遺言の方式として、「録音による遺言」がありますが、遺言者の肉声を死後もそのまま保存することができる点と録音機さえあれば、簡便に遺言をすることができるという長所はあるものの、録音がうまくいかなければ無効になる可能性を含んでいたり、遺言者の肉声を特定する際に困難を伴うことが予想されるため、日本においては望ましい方式とはいえません(韓民1067条)。
 在日朝鮮韓国人の場合であっても、実務においては、自筆証書遺言と公正証書遺言が圧倒的に多く用いられているため、本ホームページではこれらに限って説明することにします。

(1)自筆証書遺言

 自筆証書遺言は、遺言者が、全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないとされているのですが、実務上これらの要件が満たされていないものに遭遇することも少なくありません。上述したとおり、方式を満たしていない遺言は無効となりますので、自筆証書遺言の作成にあたっては十分に注意して下さい。
 なお、自筆証書遺言の場合、次の公正証書遺言とは異なり、相続人は各種相続手続を行うのに先立ち、家庭裁判所において検認を受けなければなりません。

(2) 公正証書遺言

 公正証書遺言は、証人二人以上の立会い下、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人がこれを筆記した上、遺言者及び証人にこれを読み聞かせた後、遺言者・証人が各自これに署名捺印し、最後に公証人が方式にしたがって作成されたものである旨を付記し、署名捺印しなければならいならないとされています。
 このように、公正証書遺言の場合、公証人や証人といった第三者が関与するため、後に方式を満たしていないとして無効となる可能性は極めて低いと考えられます。

遺言の内容

 在日朝鮮韓国人の遺言において、法定相続分や法定相続人、遺贈等相続法上の行為については、相続に関する問題であるとして、原則的に韓国法が適用されることとなります(通則法36条)。しかし、在日朝鮮韓国人が遺言書に、日本法によって相続問題を処理する旨を明示した場合(かつ死亡当時日本に常居所を有していた場合)又は日本に所在する不動産について日本法によって処理する旨を明示した場合は、いずれも日本法によって相続手続をすすめることになります(通則法41条)。
 日本法によるべきか、韓国法によるべきかは事案によって異なりますので、注意が必要です。

公正証書遺言作成手続に必要となる標準書類等

遺言者本人
印鑑登録証明書(3カ月以内に発行されたもの)
戸籍謄本(3カ月以内に発行されたもの)
受遺者(遺産をもらう人)
住民票等
その他
不動産の全部事項証明書・固定資産評価(公課)証明書
身分証明書

※その他、証人二人以上が必要となります。